免疫組織化学染色試薬ヒストファイン (Anaplastic Lymphoma Kinase) 遺伝子は染色体2p23に位置し、その遺伝子産物は1,620アミノ酸残基、ALK約176kDaの膜貫通型タンパクです。ALKタンパクはインスリン受容体ファミリーに属する受容体型チロシンキナーゼであり、リガンドが結合することにより二量体を形成し細胞質内にあるキナーゼドメインが活性化することで、その機能を果たすとされています(1)(2)。ALKタンパクの発現は、正常組織では脳の神経細胞などに限られるため(3)(4)、ALK免疫組織染色は 遺伝子の再構成に起因する腫瘍に高い特異性を示します。固形腫瘍では、肉腫の1つである炎症性ALK筋線維芽細胞性腫瘍(IMT)の約半数がALK陽性となることが知られています(5)。また、非小細胞肺癌の一部(2-5%程度)が 融合遺伝子を有していると報告されており(6)、ALK阻害剤の適応判定のために、高感度化されたALK免疫組織染色が利用されています。悪性リンパ腫では、成熟T細胞腫瘍であるALK陽性未分化大細胞型リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma, ALK-positive: ALK陽性ALCL)と成熟B細胞腫瘍であるALK陽性大細胞型B細胞リンパ腫(ALK-positive large B-cell lymphoma: ALK陽性LBCL)の2つの病型がALK陽性となることが知られており、この2つの病型以外はALK陰性となることから、悪性リンパ腫の鑑別診断にあたってALK免疫組織染色は極めて有用な手法です。未分化大細胞型リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma, ALCL)は、形態的にHodgkin細胞に類似したCD30(Ki-1抗原)陽性の大型リンパ球の増殖を特徴とする腫瘍Ki-1-positive anaplastic large cell lymphoma(Ki-1リンパ腫)として、1985年Steinらにより最初に提唱されました。その後1994年に、染色体転座t(2;5)(p23;q35)を有するALCLにおいて、ALK融合タンパク(p80NPM-ALK)がはじめて報告されました。WHO分類第3版(2001年)では、ALCLをT細胞性あるいはnull細胞性のものに限定し、WHO分類第4版(2008年)では、ALCLをALK陽性ALCL(ALCL, ALK-positive)、ALK陰性ALCL(ALCL, ALK- negative)、原発性皮膚ALCL(primary cutaneous ALCL)に分類し、改訂第4版(2017年)からは、新しく乳房インプラント関連ALCL(breast implant-associated ALCL)が追加されました(7)(8)。ALK陽性ALCLとALK陰性ALCLは形態学的には区別ができず、ALKタンパクの発現の有無によって分けられる病型です(9)。ALK陽性ALCLは、染色体の再構成による 融合遺伝子の形成を特徴とする腫瘍で、遺伝子産物であるALK融合タンパクは二量体化し恒常的にチロシンキナーゼが活性化しているため、細胞増殖シグナルなどが亢進し、細胞ががん化すると考えられています(2)(10)(11)。t(2;5)(p23;q35)による融合遺伝子 の形成がよく知られていますが、その他にも多くの転座様式が存在しており、転座相手によってNPM1-ALKALK免疫組織染色の染色パターンが異なることが知られています(7)。一方、ALK陰性ALCLが有する遺伝子異常としては、 再構成、 再構成などが知られていますが、 再構成を有する症例はALK陽性ALCLと同様に予後良好であるのに対して、 再構成を有する症例は予後不良であることが報告されています(12)。ALCL, ALK-positiveにおける 転座と融合遺伝子染色体異常t(2;5) (p23;q35)t(1;2) (q25;p23) inv(2) (p23q35) t(2;3) (p23;q21) t(2;17) (p23;q23) t(2;X) (p23;q11-12) t(2;19) (p23;q13.1) t(2;22) (p23;q11.2) t(2;17) (p23;q25)DLBCL: diffuse large B-cell lymphoma, IMT: inflammatory myofibroblastic tumor, ALK+: ALK- positive, SCC: squamous cell carcinomaof esophagus出典(7)より表1を引用改編ALKDUSP22ALK融合遺伝子NPM1-ALKTPM3-ALKATIC-ALKTFG-ALK CTLC-ALK MSN-ALK TPM4-ALK MYH9-ALKRNF213-ALKNuclear and diffuse cytoplasmicDiffuse cytoplasmic with peripheral intensificationDiffuse cytoplasmicDiffuse cytoplasmicGranular cytoplasmicMembrane stainingDiffuse cytoplasmic Diffuse cytoplasmic Diffuse cytoplasmicTP63ALK染色パターンALKTP63DUSP22頻度同じ融合遺伝子を示す疾患84%13%1%< 1%< 1%< 1%< 1%< 1%< 1%DLBCLIMT, ALK + histiocytosisIMTDLBCL, IMTSCC, IMT76 遺伝子と悪性リンパ腫ALK
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